魔法使いの猿達へ

太った精神病の男がライブハウスで酒を飲み、服用していた薬物のせいでラリってしまって、山田亮一が17才を歌っている時に大きな声でありがとう、ありがとう…と感謝を唱えていたライブの帰り道、5ちゃんのバズマザーズスレではそのことで話題が持ち切りで、「これ書いたのせいやくんでしょ」と当時好きだった男の子にラインを送ったら「もえちゃんでしょ」と返ってきて、私はそれがなんか嬉しかった。違うけど。

 

2013年に出たバズマザーズとしての最初のEPに「魔法使いの猿達へ」という曲が入っている。これは言うまでもなくハヌマーンというバンドとそのファンへ向けたお別れの曲で、(おそらく)バズマザーズでいちばん最初のバラードだ。ハヌマーン時代の鋭さはほとんど失われて、暗いトンネルの中をすぐそこに見える柔らかい光を目指して歩いている、その歩幅に近いリズムで、山田亮一は猫背になってギターを弾いている。

 

曲の中では、ハヌマーンとそのファンは "容易に会える距離にいておそらく二度と会わない人たち" と表現されている。あの日の精神病の男やせいやくんや、ストパーをかけた山田亮一(今は伸ばした天然パーマをそのままに前髪をかきあげて胡散臭いオジサンの様相)が、わたしにとってのそういう人たちになってしまった。山田亮一にとってももう、"二度と会わない人たち"なのかもしれない。

 

前身バンドとの決別とバズマザーズとしての再出発を歌ったこの曲(の入ったEP)からももう10年近く経ってしまった。山田亮一は今は大阪でバーテンダーとして働き、猫とみおちゃんと3人で暮らしているらしい。かつて一緒にライブに行っていた友達は、みんなまだ山田亮一のこと気にかけてるんだ偉いね、とかって言ってたけど、自分を救ってくれた相手に愛想を尽かすのはなかなか難しい。何年経ってもね。

 

魔法使いの猿達へ

魔法使いの猿達へ